Future Diamonds vol.02 –ドイツ遠征で得た世界基準の日常化

—— 西谷冬樹監督・安田孟浩コーチインタビュー

 

(写真、左:西谷冬樹ジュニアユース監督、右:安田孟浩コーチ)

 

三菱重工浦和レッズレディースジュニアユースが8月4日から12日の日程で行ったドイツ遠征は中学1年生年代と中学2年生3選手を加えた若いチームで臨んだ。遠征期間中には、U-17のチームが出場する『The Power Cup』という大会に出場。ドイツの年上の選手たちを相手にたくましく戦い、なんと準優勝という成績を収めた。

今季、レッズレディース育成では、ジュニアユースはアメリカ遠征も実施、ユースはスウェーデン遠征を経験と、全カテゴリーの選手たちに世界を経験させるという育成強化方針のもとで、選手の成長を促している。

こうした経験を通じて、ジュニアユースの選手たちが、どのような経験を積み、今に生かしているか、ドイツ遠征から約1ヶ月が経過した今、ジュニアユースの西谷冬樹監督と安田孟浩コーチに話を聞いた。

 

不安と期待の中での出発

――今回のドイツ遠征について、全体を振り返っていかがでしたか。

西谷監督:正直ドイツの17歳以下のチームが相手と考えたときに、本当に我々のU-13、U-14の選手たちで、体格差とかスピードとかそういうものがはたして対応できるのかどうかは不安だったんです。

ただ、選手たちの中には海外も初めての選手も多いし、長い遠征も初めてという形だったので、遠征に行き、勝ち負けじゃないものが身についてベースになっていけばいいなと思っていました。

サッカーのところでどのくらいできるかみたいなところは、少し不安がありながらも期待もしていたという感じでした。

 

練習試合での手応え

――実際に戦ってみていかがでしたか。

西谷監督:実際、大会に入る前に練習試合をしたんです。ボーフムとエッセンというところと。

その練習試合では、ボーフムはこちらで言う中学3年生の年代が中心だったんですが、そしたら、割と体格的なものが違えど、我々の選手たちがその気迫と技術が伴ってできて勝っちゃったんです。

まあ、勝っちゃったって言い方はちょっと語弊があるかもですけど(笑)、しっかりとプレーができたんですよね。それで、これは結構いけるんじゃないかなと思いました。

で、エッセンという安藤(梢)選手も在籍したチームの育成チームと、次の日も練習試合をしました。ドイツで女子の中では強いチームだと聞いてたんですが、結構やっぱりできたんです。そこもU-15世代だったんですけど。

その練習試合2試合の彼女たちのパフォーマンスを見て、私もそうだし、選手たちも自信がついたというのは大きかったかもしれないです。

 

 

有名クラブとの対戦で見せた実力

――練習試合を経て、ボルシア・ドルトムントやシャルケなど、いわゆるブンデスリーガの有名なクラブの育成チームと大会で対戦しています。こうしたチームにしっかり勝てたというのは、どう受け止めていますか。

西谷監督:ドイツでは女子サッカーに対して2026年までに、育成組織を全部整備する、作るということを言っているようで、あるチームだけが女子を作るのではなくて、今度は全チームが整備をするという形を進めているようです。

そうした背景があって、いわゆる有名なチームとの対戦になりましたけど、今回遠征に行ったU-13、U-14の選手たちは、非常にやっぱりテクニックに長けてるのと、加えて結構強気のある世代なんです(笑)。勝負に対して貪欲で、そのアグレッシブさで、年上のドイツの選手に対しても負けず劣らずやっていました。

球際の部分とか。で、ちょっと安田コーチに選手たちがどんな様子か事前に聞いていたんですけど、やっぱりこの遠征をすごく楽しみにしていたみたいなんですね。他の中3の選手たちなどがナイキカップのためにアメリカ遠征をしていて、その選手たちの様子や結果を見ていたから。

だから、私たちも!みたいなそういう気迫を持てていたようで、気持ちが乗っていたんですよ。

だから例えば、やっぱり球際だとかは負けてしまうんです。相手は体格が大きいし、パワーもあるから。だけど、転んでもすぐ立ち上がって、切り替えてやっちゃうみたいな。

そういう場面がたくさん見えて、これは鍛えられるなと思って、観ていました。

 

技術とプレーの質で対抗

――基本相手は高校生年代がベースですよね。

西谷監督:そうそう、高校生年代です。でも、サッカーのプレーの質は、体格は大きいけど、我々の選手たちの方がサッカーの質は高い印象でした。テクニックも含めてプレーの質は高かったと思います。

だから体格差があってもちゃんとフットボールができている。相手の逆をついて、ゴールに向かうシーンをたくさん作っていたので。

安田コーチが見た選手たちの変化

――安田コーチは、遠征をしている選手たちを見てどんな感想がありますか。

 

安田コーチ:まず自分の基準というんですか、私も昨年ナイキカップを経験させてもらって、いろんな海外の女子チームとやらせてもらっていたので、球際のところだったり、気迫だったり、雰囲気を持ってくるだったりというところは、選手たちにも伝えていました。

そういうところも踏まえて、西谷監督と一緒に帯同させてもらって、どれぐらい本当にできるんだろうというのは楽しみにしていました。

その中でも、引かないというんですかね。自分たちから向かっていくっていうところは、ずっと言ってきていたんですが、それがグランドの中で表現してもらえたので、自分としてはそういった選手たちの表現を見るのが楽しかった期間ではありました。

 

予想を超えた準優勝という結果

――この準優勝という結果自体はどういう風に捉えていますか。

西谷監督:そこまで行くとは思っていなかったです。選手にはまず予選通過をしようみたいな感じで伝えていました。だからまず目先の一戦に集中するという形で臨んでいました。

で、ちょっと保険かけるわけじゃないんですけど、もう負けようが何だろうが、とにかく最初から最後までフットボールをしっかりプレーし続けようみたいな話をしていました(笑)。

だからまさか決勝まで行くなんて思ってなかったです。

この大会って、向こうのデュッセルドルフの日本人の方々が、サッカーを通して交流して、もっと視野を広げようみたいなコンセプトで企画して作ってくださった大会で、他の国のチームも呼びたかったけど、今回はいろいろな事情で日本だけになったそうなんです。

そうした状況だったので、現地の日本人の運営をされている方たちが当然我々を応援してくれるわけですけど、まさかそこまで行くとは思っていなかったようで、感動した!ということを伝えてくれました。こんなにできるんですね!と。驚きをすごく持ってくれたみたいです。

世界基準を日本に持ち込む

――遠征から1ヶ月ぐらい経ったと思いますが、お二人が見ていて、選手たちから見える変化のようなものはありますか。

 

西谷監督:もうそれは、世界基準というスタンダード、世界へのスタンダードというのがあると思います。ドイツ遠征だけではなく、その上の世代もアメリカ遠征をさせていただいて、各世代で世界を体感できたことは本当に違いを生みますよね。

体格が違うからどう戦うのかと、もう1つは球際は強い、速いはもう当たり前だと。

で、私も安田コーチも、やっぱり一緒に帯同してもういろんなチームと戦っても、そこはスタンダードだと理解しているから、それが日常の基準になるんです。

で、これはよくあることなんですけど、日本に戻ってくると、次の遠征までにやっぱりすごく時間がかかるので、そうなると、結構日本のスタンダードにまた戻っちゃうというのがあります。

特に球際とかゆるくなっちゃう。

でも、そうではなくて、やっぱり矢印を内側に国内に向けるんじゃなくて、我々はいつも外、世界に向けようということを言っています。

その世界のスタンダードを、まず日本でも自分たちの練習からやって、対戦相手とか、レフェリーの方とか、多少やっぱり日本国内のそれというのがあると思うんです。でも、そこを我々が変えていこうと。要は日本のスタンダードを、我々がリーディングチームとして変えていこうということを、もうすでに言っていて、やっていて、習慣化されようとしているという感じです。

もうバチバチです、練習中から。それはもう、今回のドイツ遠征の選手たちだけじゃなく、アメリカ遠征を経験している選手たち含めて、全員がその基準になろうとしている。

やっぱり海外の選手たちは、隙あらば足を出してくるし、体をねじ込んでくるし、もうちょっとでもボール触れるんだったらスライディングしてでも、相手ボールをルーズボールにして、なんとか取り返そうとしてくるんです。

日本だと、たいていのチームが相手であれば、うちの育成の選手たちは、多少アイデアを持たずに持っていても、もう1回アイデアを作り直す時間を持てたり、もしくはちょっとコントロールが悪くても、もう1度自分のものにできたりとかしちゃいかねないんですよね。

でも、それが海外だとそうはいかない。アメリカ行ってもそうだったし、ドイツ行ってもそうだし、そのスタンダードは感じました。

だから、今その環境を、この三菱重工浦和レッズレディースのジュニアユースの環境で、日々の取り組みとして作っています。

なので、今は守備の方では激しく、最後の最後不利な状況でも体を投げ出してボールを守ったりするようになってきています。で、そうすると今度は攻撃側が本当にシビアなところにボールを置いて守らなきゃいけないし、判断スピードも上げなきゃいけないし、そうやって相乗効果が生まれてくるんですよね。それがいずれまた海外の遠征に行ったときに、今度はそのスタンダードの中で自分たちの良さを出せるようになり、何よりもの自信になる、と考えています。

これは今回のドイツやアメリカ遠征でもそうでした。結構、自分たちのやってきたことが通じるんだな、と。

それが自信となって、でも、やっぱり世界は球際の戦いが高いスタンダードとしてあるから、これはやっとかなきゃいけないよねみたいな雰囲気にはなっています。

 

日常練習の変化

安田コーチ:本当に、西谷さんが言ったように球際のところもそうです。日常のその練習が本当にバチバチしてて、でも、削られようがすぐ立ち上がって、また次のボール拾いに行ったり、奪い返しに行ったりとかしてるので、もちろん行く前にも選手たちには伝えてはいたんですけど、実際やっぱ遠征に行って体験して体感して、あ、やっぱりこういうことだったんだというのを持って、今の練習に入っているので、日常がまたもうワンランク、ツーランク上がったようなのはすごく見ていて感じます。

 

西谷監督:景色が変わったよね。景色が間違いなく変わって。やっぱりね行ってみて、彼女たちが肌で感じて、実際それが一番なんだとあらためて思いました。

 

視野の広がりと継続的な成長

――そういう意味では育成全体で海外遠征に行ったという経験はプラスになりましたか。

西谷監督:いや、間違いないです。視野が間違いなく広がったと思います。

今までとは違う景色が今練習中に見られています。

だから、やっぱり継続して日本のスタンダードを変えるところまで我々も選手と一緒にやっていきたいなと思っています。

――世界を目指すと言っているだけではなく、経験する場を提供することによってそれが具体化されるということでしょうか。

西谷監督:本当にそうだと思います。だからビジョンとして世界に羽ばたく選手を育成していくという目標に向かって今やっていく中で、やっぱり彼女たちがこの年代で世界のチームと戦う経験をしていくというのがとても大切です。

いつも言っていることになるんですが、世界との差は、経験の違いだけで、経験を積んでいくということが何よりも大事かなと感じています。

それをこっちに戻ってきても、継続して質を上げていくということで取り組んでいます。

 

シームレスな育成環境

――育成では、ジュニアユースの選手がもうユースの公式戦含めて試合に出ていたり、ユースの年代の選手がもうトップに登録されて試合に出ています。このシームレスな環境とか、そういうものを作り上げつつありますけど、とてもいい循環になってるんでしょうか。

西谷監督:そうですね。いい循環になっていると思います。ジュニアユースの中でもそうだし、それがユース、トップにもつながっていると感じます。

今、平川陽菜選手が、16歳でトップチームのレギュラーを掴もうとしている姿を育成の選手たちみんな、見ていますからね。

私も私もみたいな気持ちは、あると思います

 

—-—そうすると13歳、14歳でドイツに行き、向こうの高校生年代と試合をしても全然問題ないという気持ちになってプレーできたのかもしれないですね。

西谷監督:そうかもしれません。本当に女子はそういう飛び級がしやすいですし、可能なので、2つ、3つ上でもできる可能性があります。そこがすごく魅力なんだと思います。

 

国内大会への意気込み

――海外遠征から戻ってきて、今色々こうリーグ戦とか戦われてると思いますが、あらためてこの経験を今自分たちの目の前にある公式戦でどう活かしていきたいですか。

安田コーチ:高円宮妃杯も始まるんですが、去年準優勝で、自分も悔しい思いもしました。また悔しい思いをした選手たちがこうやって海外遠征をして、そこにまたもう1回挑んでいくというところに自分も関わっているので、日本一、選手たちが目標として今年度立てたところに、高円宮妃杯で優勝、リーグでも優勝というところにに向けて、どれだけサポートしていけるかというところを毎日取り組みたいです。

西谷監督:国内の大会もとても大切ですし、そこは考えているんですが、それとはまた別の次元で、やっぱり世界を見据えて日々を過ごしていきたいです。

やっぱりアメリカ遠征でのナイキカップやドイツ遠征を経験して、浦和から世界へ、ではなく、世界の浦和、という意識で取り組みたい。頭の中では、ですよ(笑)。

だから国内に対して言うとすれば、もう圧倒して勝つ、というところを目指して日々取り組んでいきたいです。私たちの要求も、この夏の経験を機に、どんどん変わっていっているわけなんです。

例えば、じゃあ、球際を強くとか激しくとか、粘り強くやろうとなったら、その意識だけじゃダメじゃないですか。だから体幹を鍛えようとか、そういうアプローチを変えていく形になるんですよね。

やっぱりドイツの選手たちはグリップも効いてたよねって。ボールを奪いに来た後、ちょっと疲れていても、もう1回奪いに行くことができていた。

あの球際の粘り強さを自分たちが持つためには、日ごろ、サッカーだけじゃなくて体幹だとか、ステップワークもそうなんだけど、そういうこともやらなきゃいけないよねとなる。そういう話もして、取り組んでいくと、もう彼女たちも目の色を変えてやってくれるわけです。

そしたらこちらの要求も、どんどん厳しくなるし、互いに成長していくわけです。

だから、この夏の経験、海外遠征で得た経験をとにかく、国内の日本の大会もあるけども、それに生かすのも当然だし、成果として見せられるようにしたいと考えています。

その上で、また再び海外に行くみたいな流れを作れるといいですね。そういう勢いを出していきたいです。

 

指導者としての成長

――今の話を聞いてると、選手だけではなく、指導者のみなさんにとってもちょっと基準が上がるというか、とても刺激になっているということですね。

西谷監督:なります。本当になる。

私も初めて女子を見たので、女子のその世界のスタンダードって何なのか、というところはやっぱり知らなければいけないわけです。

その上で日本で、どうやってそういうところに近づけていくかというのはすごく楽しみに見ていて、それがすごくやっぱり明確になった遠征でした。

だからその基準をコーチと監督で互いに落とさずに、選手にこう落とし込んでいけたらいいなと思っているし、選手もそれを分かってくれているので。

遠征後に感想文とかも書いてもらったんですが、みんなやっぱり夢とか目標が膨らんでいたんですよ。

 

夢と目標の解像度の向上

西谷監督:例えば、ある選手は、私は海外で活躍するというのはそこまで思ってないんですけど、という前置きがあって、でもWEリーグで活躍したいです、と。

その中で、WEリーグでも外国籍選手が来始めているから、そういう選手たちとも戦わなきゃいけないので、この経験はすごく良かったです、みたいなことを書いているんです。

だから、WEリーグで活躍するということでもプラスアルファになっているし、その中でもこの海外遠征で海外の選手と戦って、その必要性を自分の夢や目標の中に組み込めているということが、よかったなと思うし、またひとつこう、夢を膨らませた遠征だったなとも思っています。

——選手それぞれに夢や目標の解像度が上がってるんですね。

西谷監督:本当にそうですね。

どんどん、こう解像度が上がっていって、明確になってきているんだなというのはすごく素敵だなと思っています。

(了)