不定期連載『Face』vol.3 池田咲紀子が語る「目立たないプレー」への美学と、“みんな”と目指す優勝への思い

2025/26シーズンの選手たちの素顔や試合に臨む姿を伝える不定期連載『Face』。

 

第3回は、中学3年生でトップ登録されて以来、19シーズンにわたってトップレベルでプレーを続け、先日国内トップリーグ200試合出場も果たした守護神、池田咲紀子選手のお話です。ぜひ、ご一読ください。

 

 

 

 

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都築龍太、西川周作ーー。

浦和レッズには、昔も今もリーグを代表する“華”(はな)のあるGKが在籍し、活躍している。

三菱重工浦和レッズレディースの池田咲紀子もまた、その系譜に連なるGKの一人だろう。

基本となるセービング技術はもちろんのこと、チャンスやパスになる正確なキック。加えて、カップ戦でのPKではキッカーも務め、昨シーズンの皇后杯で、チームにタイトルをもたらすこともしている。

だが、そうしたインパクトあるプレーをする一方で、池田は「できるだけ目立たないプレーを心がけている」と言う。

トップチームに登録されて19シーズン目。

かつては「プレーでチームに迷惑を掛けたこともあった」という彼女が、「目立たない」ことを軸に据え、どのようにチームに貢献し、今季を戦っているのか。話を聞いた。

 

 

◆19年間、浦和で続けてきた理由◆

トップチームに登録されて今年で19年になります。

自分でもびっくりです(笑)。

長くこの一つのチームにいる理由...、それは、ずっと中学生からお世話になったこのクラブに、恩返ししていきたいという思いが強かったからだと思います。

もちろんこれまでに移籍を考えなかったかと言われたら、嘘になるんですけど...。

それでもここで優勝したい、浦和で活躍したいという思いが自分自身は強くて、それとまだこのクラブに何かを残せていないなと。そういう思いで多分ずっと移籍せず、このチームにいるんだと思います。

 

◆憧れていた先輩たち◆

※写真は2012シーズン

私自身はこれまでにプレーを続けていく上で、年上の世代の方たちにもたくさん出会ってきました。特に憧れていたのは、中学生で昇格したときにGKだった山郷のぞみさんと小金丸幸恵さんの二人です。二人の存在は、すごく大きいと思います。

山郷さんはピッチで、声だったり、背中だったり、プレーだったり、いろんな部分でプロのサッカー選手としての立ち居振る舞いをしていて、そういう部分から色々学ぶことが多い存在でした。

小金丸さんはプレーはもちろんですが、ピッチ外のところでも、選手として自分に何ができるかなど、たくさん教えてもらいました。

それ以外にもたくさんあるんですけど、二人には本当にいろいろと学ばせていただきました。

私自身は、中学生だったので、最初は私がここにいていいんだろうかと思っていました。こんなすごい選手たちと一緒にやっていていいんだろうかと。そう思いながら過ごしていたのを覚えています。

山郷のぞみ:2005-2012までレッズレディースに在籍。なでしこジャパンにも長く選出され、2011年のFIFA女子ワールドカップ優勝メンバーの一人。存在感のあるGKとして、レッズレディースでも長く守護神として活躍した)

小金丸幸恵:2005-2012までレッズレディースに在籍。不動のGKだった山郷のぞみがいたため、レッズレディースでの試合出場数は決して多くなかったが、セービングなど高いレベルで備えていたGKだった)

 

◆今度は自分が先輩として◆

そのころから10数年経ったいまは、年下の選手たちがたくさん入ってくる立場になりました。GKとして最年長になって、若い選手たちと関わっていくことが本当に増えたと感じています。

私が若いころに先輩たちがどういうふうにしてくれていたか、そのときに掛けてもらった声とか、いろんなものを思い出して、参考にしながらも自分らしく後輩たちにできることはないかなと思いながら、頑張って接しています。本当はそういうのは苦手なんですけど(笑)。

今は私が試合にメインで出ていますが、出ていないシーズンも経験しましたし、そういう立場も分かっているので、年上だし、声のかけ方とかは自分からかけた方がいいのかなと思っています。ときには私が思っていることではあるけど、直接ではない方がいいかもと思うときもあって、スタッフの人に言ってもらったりすることもあります。

もちろん互いに成長していくためにちょっと厳しく言うこともあるけど、同じ選手というのは変わらないので、年上だから何を言ってもいいということではないと思っています。その辺りは配慮しながら、言葉遣いなどは気にしながらやっています。

 

◆200試合出場という節目◆

先日、国内トップリーグ通算200試合出場に到達しました(2025/26 SOMPO WEリーグ第6節で達成/国内トップリーグ通算200試合/内訳:なでしこリーグ 131試合、WEリーグ 69試合)。

200試合というと、やっぱり10年以上出場しないと到達できないので、結構長い期間ですよね。

みなさんの支えがあってこそだと感じていますし、本当に感謝しています。

その中で自分が毎年目標として課しているのは、去年の自分よりも成長するということです。

今の自分に満足せず、年を重ねていっても毎年、より高いレベル、成長を変わらずにし続けること。

それが自分自身は大事だと思ってます。

 

◆FWからGKへの転身◆

サッカーを始めたのは7歳のころでした。

最初からずっとGKだったわけではありません。小学生のときはボランチとかをやっていて、キーパーは中学2年生からでした。その直前はFWとかでプレーしていました。

GKに転向したきっかけは中学2年のときでした。

明日からキーパーだと言われたときは、最初、悔しい思いもあったんですけど、私自身は試合に出たかったし、チームのために必要としてもらえる場所がキーパーだったというだけで、今までとそんなに変わらないかなという気持ちでした。

だから最初の悔しい思いもすぐになくなって、明日からキーパーだと言われたその日にキーパーグローブを買いに行きました(笑)。

先輩のキーパーが大会前に怪我をしてしまって。私の1個下の学年にはキーパーの子がいたんですけど、まだ中学1年生で、小学生から上がったばかりでした。だからいろいろな面でまだ難しいよね、ということで、フィールドプレイヤーでGKを探したようです。

4人ぐらい候補に挙がって、練習でちょっとやってみて最終的に選ばれたという感じです。

全くやったことがなかったわけではなかったんですよね。それと、コーチの方が本当に丁寧に教えてくれましたし、すぐ大きな大会、中学生の全国大会が1か月後とかに控えている状況だったので、もうやらなきゃいけないという思いでした。

だから、そのときはがむしゃらに、とにかく試合で恥ずかしくないぐらいのところに持って行かないとという気持ちで必死でした。

フィールドのプレイヤーとしては試合に出られたり、出られなかったりという時期だったので、本当に自分にとってはそのときチャンスかなと思えたのも決断した要因だと思います。

 

◆キーパーというポジションの魅力◆

キーパーの難しさとか嬉しさですか?

難しさはそんなに感じてないです。

むしろ、責任あるポジションをできるというのは自分としてはうれしいです。

それとシュートを止めたりとか、チームに貢献できて勝てたりするとやっぱりうれしいです。練習がきついなとか思うことはあるんですけど、やめたいかと言われたらそうではないです。すごく自分に合っている、今となったら本当に自分に合ってるなと思います。

一番後ろにいて味方の攻撃を見ているときどんなふうに見ているか?

味方がゴールを決める流れを見ているときは、みんなうまいから安心して見ていることが多いんですけど、たまに外れたりしたら、後ろで小さくリアクションしたりしていますよ、ああ!みたいな(笑)。

 

 

◆目立たないプレーという哲学◆

 

自分のプレーで見てほしいところですか?

難しいな...(苦笑)。

見てほしいとかって、あまりないかもしれません。むしろ、見なくていいくらいの感じです(笑)。

気にならないぐらいがいいんですよね、自分のプレーが。なんか、うわっ!!とかもならないプレーが好きだから。

良い意味でも悪い意味でも目立たないというのが自分にとってはすごく大事だと思っていて。悪いプレーで目立たないのはもちろん大事なんですけど、よいプレーでも目立たないというか。

いいプレーというか、キックとかでもすごい!ってなるんじゃなくて、もう当たり前のようにできるところまで私は持っていきたいし、そういうプレーが好きなんです。

だから目立たないプレーを目指してます。

まあ、この髪の色(ピンク)で何をいっているんだ!?と思われるかもしれないですけど(笑)。

 

◆サッカーというスポーツの中でのGKの存在◆

私が考えるGKというポジションーー。

どんなものかと言うと、本当に結果に関わるポジションだと思っています。

サッカーは、ゴールがやっぱり結果を左右するので、そこには絶対キーパーがいるじゃないですか。

フィールドプレーヤーはいろんなフォーメーションがあるけど、キーパーは絶対変わらずゴール前にいて、そのゴールを守るというところに絶対関わります。だから、私は、その意味で、サッカーの中でGKが一番大事なポジションだと考えています。

プレー次第ではゲームを壊してしまうし、一方で良いプレーができればチームを救うこともできる。フィールドプレーヤーもやってきた私からしても、ストライカーとかよりも、やっぱり魅力的ですし、楽しいポジションです。

本当にやりがいがあって、一番好きなポジション。

もちろん、今までに私自身もチームにいっぱい迷惑を掛けたプレーもあります。逆に良い部分で評価してもらえるところもありましたけど、結局何も言われなくても絶対いてほしいと思われるGKが一番私にとっては目指したいというか、それが一番いいかなと。これまでの経験を経て、なんとなくですけど思っています。

 

◆影響を受けた指導者たち◆

 

指導者の方たちにもたくさん出会いました。一番影響を受けたのは誰か、と言われると、すごく難しいです。いろんな指導者の人と出会う中で、その方たちに伝えていただいたことが、私の選択肢の一つになっていくという感覚なので。

いろんな考えが指導者の人たちにもあり、求めるキーパー像の形とかも全然違うんですよね。

でも、もしその中で挙げるとすると、GKを始めたときに指導していただいた清水さん(泰治・現レディースジュニアユースGKコーチ)にお世話になったというのは大きかったですし、当時トップチームのGKコーチをしていた工藤さん(輝央/現スポーツダイレクター)に教えていただいたのはよかったと思っています。

育成の方では、清水さんにGKの基礎的なことを教えていただき、トップでプレーするときは、工藤さんからサッカーの試合の中でのGKというポジションがどういったものかを教えてもらいました。

二人の指導の種類も違うものがあったので、トップに行ったらよりサッカーの試合の中でのキーパーというものを教えてもらい、ユースではキーパーとしての体の使い方とか、テクニックの部分とか、そのベースを教えてもらいました。同時に両方を教えてもらえたその期間というのは、私にとって大きかったと思います。

 

◆サッカーが好きな理由◆

サッカーのこと?もちろん好きです!

なぜ好きかは、うーん、なんでしょう(笑)。

たぶん、みんなとやるサッカーが好きなんだと思います。

このチームにいて、みんなとやるサッカーだから好きなんだと思いますし、みんなと一緒に戦っていて、キーパーも好き、というところもつながっていると思います。みんなの存在は本当に大きいです。

私自身もサッカーが楽しいから好きだし、ボールを蹴るのも大好きだしというのはあるんですけど、それだけではなく、やっぱりみんなとやるサッカーが好きなんだと思っています。

まあ、あまりふだんは言わないですけど、みんなのことが大好きなんだと思います(笑)。

 

◆このチームの可能性◆

このチームの可能性はとてもあると思っています。

これまでレッズレディースにずっと所属していた中でも、言葉でベテランと若手の融合と言われてきたシーズンもありました。でも自分が若いときは多分先輩たちの足を引っ張っている感覚がありましたし、融合と言われながらも入りきれていないという感覚がありました。

今、自分が上の立場になったときに感じるのは、すごく頼もしい若い選手たちがたくさんいて、本当に試合で活躍してチームを勝たせるプレーをしてくれているということです。

その間にいる中堅の選手たちもチームのために行動してくれていて、本当にみんながチームのために戦える、本当にたくさんの良い選手が集まっているチームだと、より感じています。

もちろん、今年はいろんなチャレンジもあるし、失敗もあるかもしれないですけど、その中で強くなっていって、私自身は絶対に優勝できるチームだと、今戦っていて思っています。

だから私自身は最少失点を目指します。そうすれば勝利を、そして優勝をできると思うから。

このチームのみんなと優勝がしたいです。

 

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今シーズンの開幕戦となったサンフレッチェ広島レジーナ戦。

立ち上がり2分という難しい時間帯に迎えた相手の決定機を、池田はさも当然のように防いで、試合の流れを渡さなかった。

防いだ後も、彼女は何事もなかったかのように、淡々と次のプレーに移った。

だからだったと思う。

そのシーンがひときわ目立つような印象にはならなかったが、それゆえに池田自身のGKとしての凄みを、強く感じさせるシーンだった。

そのとき、思い出したことがある。

10数年前ーー。

まだ池田が高校生だったころの話だ。インタビューにあったように、山郷のぞみ小金丸幸恵、池田の3選手がレッズレディースでしのぎを削っていた。

そのときGKコーチをしていた、現スポーツダイレクターの工藤に聞かれたことがあった。3人のうち、一番身長が高いのは誰だと思うか、と。

迷わず、山郷のぞみ、と答えた。

なぜなら、ピッチに立つ山郷の姿は、3人の中で存在感が強く、最も大きく見えたからだった。

工藤は納得したような表情で次のように話した。

「そうでしょ。山郷さんが一番大きく見えるんですよね。でも、身長は彼女が一番低い。大きく見えるのは、存在感とかオーラとか、そういうものも影響していると思う。GKにとっては大切な要素の一つですよね」

オフザピッチの池田は、それこそ温厚で、ユーモアのある一言や振る舞いをするかわいらしい一面を持つ選手だ。

だが、広島戦で見せた彼女の姿がそうであったように、今の池田には、かつて彼女が憧れた山郷のような、大きく、凜とした、GKとしての凄みのあるオーラをまとっているように思う。

19シーズン目を迎えてもなお、GKとして進化を続ける彼女が、今季どんなプレーを見せ、チームを勝利に、タイトルに近づけていくのか。

「大好きな仲間」と共に歩むその姿をぜひ、スタジアムに見に来てほしい。

そして、彼女が見せるGKという特殊なポジションの面白さも、ぜひ堪能してほしい。

 

(文・写真/URL:OMA)

 

 

開幕の広島戦の決定機を防いだプレー