不定期連載『Face』vol.6 GKとしての流儀 ――伊能真弥が抱く浦和の選手としての思い

 

 

相手キッカーがPKマークにボールを置き、後ろに下がる。

その様子をゴールの中で見守っていた伊能真弥は、おもむろにゴールライン上に歩みを進め、構えた。

相手キッカーが伊能の右側にボールを蹴ると、その瞬間、ドンピシャのタイミングで両腕を伸ばし、伊能はボールをストップした。

すっと立ち上がり、センターライン付近のチームメイトへ、控えめなガッツポーズとはにかんだ笑顔を送った。

伊能が国内の公式戦に出場したのは、2023年9月2日以来。784日ぶりの出場(2025/26 WEリーグクラシエカップ GS 新潟L戦)。

チームの勝利を大きくたぐり寄せたPKストップは、伊能のポテンシャルとこれまでの研鑽が間違っていなかったことを証明した瞬間だった。

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

2025年1月に就任したGKコーチの山田栄一郎は、GKの選手たちを見たとき、素直に驚いたことを覚えている。

当時は、実績のある池田咲紀子、ポテンシャルが高いと言われていた福田史織(現在、RB大宮アルディージャWOMENに期限付き移籍中)、そして、三番手という形に見られがちだった伊能真弥というメンバー構成だった。

もちろん、総合力では池田が一歩先に行っている。だが、3選手それぞれが違った個性を持ち、それぞれがレギュラーを担えるポテンシャルを持っていた。

就任前、スポーツダイレクターの工藤輝央から「伊能をちゃんと見てほしい」と言われた意味も理解できた。

伊能の潜在能力とその時点での力は、決して第3GKの"それ"ではなかったからだ。

 

◆池田さん、福田さんに引けを取らない◆

「見た瞬間に能力があるなというのがあって。フィジカルもあるし、特にジャンプ力がありました。第3GKじゃないな、他のチームに行ったらすぐに試合に出られる選手だなと感じていました」

GKコーチの山田はそう振り返る。

「池田さん、福田さんに全然引けを取らないキーパーだなと」

特に伊能には、他の2人にはない突出したものがあった。

「女子だと厳しいと言われる上のボールに、彼女は一番届くんです。それは瞬間的なバネというか、パワーがあって。そこはもう池田さん、福田さんにないものと言えると思う」

高いボールへの到達力。伊能の大きな武器だった。

 

◆メンタルの維持っていうのは本当に難しい◆

 

だが、GKは過酷なポジションだ。1つしかないそのポジションで、第2、第3の立場にいることは、想像以上に難しい。

「やっぱりメンタルの維持というのは本当に難しいなと思っています」

伊能は静かに、現実をしっかりと受け止めていることが感じられる口調で自身の心境を振り返った。

「さっこさん(池田咲紀子)がまず試合に出場する形で、本当にみんなが試合を頑張っていますよね。自分はベンチで声を出しているだけで、そんなにチームの勝利に貢献できていないなと感じることもあって」

そんなとき、どうなるのか。

「(気持ちが)落ちるときは本当に何も考えられなくなります」

だが、伊能はそうした弱さを人に見せないように努めている。それは彼女の持つ選手としての流儀なのだろう。

とはいえ、彼女も人であり、感情がにじみ出てしまうこともある。

「表面上は明るく振る舞いはするんですけど、家へ帰ってすごく、もう無になることもあります」

そう言って笑った。

そんなときは家で飼っている3匹の犬のうち1匹を抱いて過ごすそうだ。

癒されながら、そして、そこから立ち上がる。

「そのあとに寝るのもそうですし、あと自分が好きなお菓子だったりで気分を上げたりとか。あとは練習でできなかったところというのを、さっこさん(池田)に聞いたりとか、山田さんに聞いたり、あとフィールドの選手とコミュニケーションを取ってどうしたらうまくいくかというのをやっています」

 

◆笑顔になればいいことが降ってきそう◆

伊能にどんなところを多くの人に見てほしいか、と聞くと、彼女は「笑顔」という言葉を挙げた。

「やっぱり笑顔にすれば、笑顔になれば楽しくなるかなって」

それは周りのためでもあり、自分のためでもある。

「周りもそうですし、自分もそう。自分が悲しい気持ちでも笑顔になればいいことが降ってきそうな気がします」

「だから、たまに溢れちゃうときはあるんですけど、自分の弱さを見せないようには意識しています」

 

◆チームの雰囲気って本当に大事◆

伊能は、簡単には試合に出られない立場だからこそ、自分にできることを考え続けている。

「やっぱりチームの雰囲気は本当に大事だと思っていますし、GKグループとしても、1人しか出られないんですけど、その練習の積み重ねというのは本当に大事だと思っていて」

「練習ひとつにしても雰囲気を良くしてやるのか、悪くしてやるのかによって、その対比で出る人のコンディションが変わるとも思うので、そこは意識して率先して声を出したりしています」

その姿勢は、山田も高く評価している。

「試合に出られない中でも本当に練習に一生懸命打ち込んでくれるし、本当に試合のときも、リザーブだけど、チームのためにというところを常にやってくれているので、本当に素晴らしいと思っています。だから本当に試合に出してあげたいなと思っているんですよね。もちろん、この世界はなかなか難しいんですが」

 

◆本当にピッチ内外で気を使える選手に◆

伊能は先輩である池田咲紀子を心底尊敬している。

「ピッチ内はみなさんが見てもらっているように完璧なプレーをしてくれますし、ピッチ外でも本当に後輩のことを気にかけてくれて声をかけてくれるんです。プレー面の話もするし、たわいもない話もたくさんしてくれて、本当にありがたい存在です」

だからこそ、伊能は目指すべき選手像を池田の姿に重ねている。

「さっこさん(池田)のようにピッチ内外で気を使える選手になりたいなと思っています」

「実際、さっこさん(池田)の存在があって、本当に後輩としてはすごくやりやすい環境でプレーさせてもらっています。これからどんどん後輩が増えていく中で、自分もそういう選手になれれば、後輩も生き生きとサッカーできるのかなと思っています。だからそういう選手になりたいなと思います」

そしてその上で「本当にチームを救えるような選手になりたい」とも話した。

 

◆レッズのゴールを守りたくて◆

中学、高校の6年間をレッズレディースの育成組織で過ごした。ユース後は、大学進学のため一度は日本体育大学へと進む。日体大で所属した日体大SMG横浜では、なでしこリーグと大学リーグの両方で試合経験を積んだ。

順調にプレーを続けた彼女は、大学ナンバー1という評価を得るまでのGKとなり、他クラブからもオファーが来るような存在になっていた。もし別のチームに加入していれば、多くの試合に出場できたかもしれない。

だが、それでも浦和を選んだ。理由は明確だった。

「育成の6年間を浦和レッズで過ごして、また戻って恩返ししたいと思っていましたし、やっぱりレッズのゴールを守りたくて。レッズのゴールは守りたくても守れない人もいますし、そのゴールを守れるチャンスがあるならやっぱり加入したいというふうに考えて決めました」

選んだ道は決して簡単なものではなかっただろう。伊能はレッズレディースでの公式戦出場数が、まだ7試合になる。

だが、後悔はない。

「他のチームに行っていたら多分、今よりもプレーの質というのは伸びていなかったと思います。レッズにいたからこそ今の自分のプレーがあると思っているので、そこは、今まで携わってきてくれた先輩とかコーチに感謝したいです」

そして伊能は今季、レッズレディースでプレーすることを決めた理由も次のように話した。

「GKコーチの山さん(山田)だったり、さっこさん(池田)と一緒にトレーニングしたいというのがありました。ここでプレーしたら、うまくなると分かっていましたから」

 

◆課題が見られて良かった◆

訪れた、2025年10月25日の新潟L戦。待ちに待った出場機会だった。伊能は次のように振り返る。

「約2年ぶりの公式戦だったんですけど、思ったよりは緊張しなくて、とりあえずは楽しもうという気持ちで挑みました」

「試合を通して、2年間試合経験のない中だったので、本当に難しい部分だったり、まだまだ足りないところというのはあったんですけど、最後PKで、チームの勝利に貢献できたことは本当に良かったと思います」

GKコーチの山田はこの試合を次のように評価する。

「実際GKの本当のオンのところ、シュートストップとか、そういうところは能力を発揮してくれたと思いますし、良かったと思います」

そして、課題も見えたと語る。

「それとやっぱり試合に出ないと気づけない課題というか、現れない課題というのが出たので、それも本当に良かったと思っています」

具体的には、コーチングの部分やDFへの声掛けのタイミング、自分がプレーするのか味方にプレーさせるのかという瞬間的な判断での声の出し方などだった。

「その辺りはやっぱりトレーニングマッチだと出ないんですよね。やっぱりWEリーグのチームと公式戦をやることで、極限の中で足りないところが出るものなんです。だから、そこが見られて良かったなと思うし、そこをGKコーチとして一緒に改善していきたいですよね」

 

◆自分に厳しく◆

だからこそ、伊能は今、自分に矢印を向けて新たなスタートを踏み出している。

「やっぱりプロというのは自分に対しての厳しさを持っていないといけないと思っています。人にそのミスを言うことは簡単だと思うんです。だけど、やっぱり自分にベクトルを向けることは本当に大事だなと思っていて」

そして、その上で、チームに対しての思いも口にした。

「あらためて浦和のゴールを守らせていただいて、誰でも守れるものではないし、これからも練習から責任を持ってゴールを守りたいと思いました。

試合に出られることは当たり前ではなくて、チャンスをいただいたということなので、チャンスをいただけたら、常に掴んでいきたいと思っています。

それと1試合に出て、試合に出る立場、出ない立場を経験したので、ふだん出ていない選手たちの思いもわかりますから、出てない人、悩んでいる人がいたら、一緒に乗り越えていきたいと考えています」

 

◆試合に出ても出なくても◆

次節はINAC神戸レオネッサ戦になる。彼女にその試合をどのように迎えるか聞いた。

「やっぱり試合に出ても出なくてもチームの勝利に貢献できるような声かけだったりとかコミュニケーションだったりとかを意識していきたいです。今は年齢的にも中堅くらいの立場なので、ベテランの先輩と下の後輩の子たちをつなげられる存在になりたいとは思っていて。それをやっていくと必然的にチーム力も上がっていくのかなと思いますし、チーム力が上がったら試合の勝率って上がると思うんです。それをやっていきたいと考えています」

そして、最後にチームのサッカーについても聞くと、期待を抱かせてくれるコメントを残してくれた。

「(堀監督が提示したサッカーは)最初はちょっと難しそうだなと思ったんですけど、今シーズンに入ってからみんなも慣れてきて、なんかすごく後ろから見ていても楽しそうにサッカーをしてるなって感じています」

「やることが堀さんのサッカーははっきりしているんです。運ぶところ、パスを出すところ、サッカーが整理されていて。だから、みんな伸び伸びと生き生きとプレーしているように感じます。後ろから見ていても、みんな笑顔でプレーしているんだろうなって感じるほどです」

 

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11月8日ーー。

INAC神戸レオネッサ戦は、今季のWEリーグのタイトル争いを左右する"決戦"になる。

その試合を前に伊能の話を届けたのは、この試合が、総合力の問われる試合だと思ったからだ。

チームが最大値を発揮するーー。

そのためには伊能のような存在がいることを、もちろんご存知の方も多いと思ったが、より多くのみなさんに知ってほしいと考えた。

彼女のコメントからもわかるように、確かに試合に出場していない選手が、直接的に勝利に貢献しているようには見えづらいかもしれない。

だが、確信を持って言えるのは、彼女の練習での積み重ねや研鑽、そして作り出す雰囲気が池田やチームのパフォーマンスにも影響を与えているということ。

きっと伊能は、I神戸戦もいつもどおり、彼女らしくチームに貢献するために行動をするだろう。気負わず、それが当たり前のように。

そして、その存在を感じた選手たちは、ピッチで最高のパフォーマンスを示してくれるはずだ。

ぜひ、その姿を見に、浦和駒場スタジアムに来てほしい。

そして、みなさんもレッズレディースが最大値を出すために、後押しをしてほしい。

(文・写真/URL:OMA)

 

 

 

 

この原稿は、レッズレディースパートナーであるStoryHub社のプロダクトを活用し、人とAIが共創して作成させていただいております。

 

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