不定期連載『Face』 vol.7 「岡村來佳の現在地—逆境を越えて前へ」
2025-11-22
2025/26シーズンの選手たちの素顔や試合に臨む姿を伝える不定期連載『Face』。
第7回は、先日の皇后杯2回戦で今季先発フル出場を果たした岡村來佳選手のコラムです。彼女の覚悟が伝わる内容になっています。ぜひ、ご一読ください。

◆今季初フル出場後に抱いた感情◆
試合を終え、ゴール裏に挨拶に行く。
ようやく訪れた瞬間に岡村來佳は、うれしさと安堵、そして課題を感じた悔しさとさまざまな感情を抱いていた。
だが、最も強く感じていたのは、目の前にいる、そして、今日はここに来られなかったかもしれない常にサポートしてくれるファン・サポーターへの感謝だった。
皇后杯2回戦、スフィーダ世田谷FCとの一戦。
シーズン開幕から約4か月、長く苦しい時間を経て岡村はようやく今季先発フル出場を果たし、勝利に貢献した。

◆左足に感じた痛み◆
並々ならぬ覚悟で、シーズンに臨んでいた。背番号が3に変わったこと、昨シーズン後に主力と言われていた選手たちが多く移籍をしたこと。
自身がどこまでスタメンに食い込んでいけるか、勝負の年と位置づけていた。
7月に行われた開幕前のアメリカツアーでは、屈強なフィジカルを持つスポーツの本場とも言える選手たちを相手に一定の手応えと成長への課題、そして監督の堀孝史の提示するサッカーへの手がかりを掴んでいた。
充実感の中、開幕に向けて、よりギアを上げる。
そう思っていた矢先、左足に痛みを感じた。

◆サッカーへの傾倒◆
岡村がサッカーをはじめたのは、幼稚園の年中ごろ。
4歳上の兄の影響だった。
練習や試合についていくうちに、自然と自分もボールを蹴りたい、と選手としてのキャリアをスタートさせた。
生来の想いの強さが、サッカーにのめり込ませた。
やるからには一番にならないといけない。プロになるしかないと当然のように思っていた。
小学生時代を経て、岡村はレッズレディースジュニアユースに加入し、レッズでのキャリアをスタートする。
スピードやフィジカル、そして想いの強さ。
岡村は、自身の特長を示し、頭角を現して、2024年トップチームに昇格した。
◆育成時代からあった覚悟◆

加えて岡村には、若いながらも備えているものがあった。
プロリーグで戦っていく上での覚悟と厳しさだ。
彼女は、試合に出場すること、そして選手としての価値を示すこと。それらがかなわなかったときは、このチームにはいられない。いてはいけない、という想いを持っていた。
レーシングドライバーだった父の影響だったと思う。
あと一歩でフォーミュラ3(F3)には届かなかったが、父はプロのレーサーとして活動をしていた。
子どものとき、そんな父がレーシングドライバーをするために自身で営業をし、スポンサー獲得に奔走する姿も目にしていた。
プロは厳しい世界。トップチームでプレーすることの当たり前の覚悟が、彼女には育成段階から備わっていた。
◆焦燥◆

10月初旬。まだ岡村は復帰できずにいた。
左足の痛みは、疲労性から来るものと診断されていた。
今季に懸け、個人としてもシーズン前から積み重ねてきたハードトレーニングが、結果として悪い方向に出てしまったものだった。
復帰の道筋が見えない状況に、トレーナールームでも彼女は悔しさのあまり涙を流すことさえあった。
それまでにフル合流ができていなかったわけではなかった。8月、9月とそれぞれの月で一度はチーム練習に復帰し、合流をしている。
だが、少しすると痛みが出て、離脱せざるを得なかった。
監督の堀は、その週の練習でよいプレーをした選手、若手であってもベテランであっても年齢に関係なく起用する方針など、チームに健全な競争を起こしている。
若手と言われる岡村と同世代や少し上の先輩たちが、チャンスを掴み、結果を出していた。
自分は何をやっているんだろうーー。
今季を勝負の年と位置づけ、今まで以上に強い想いで臨んでいただけに、無為の時間を過ごしているような感覚に襲われ、どうしようもない感情に心が揺さぶられていた。
◆あらためて感じた支えの大きさ◆

10月11日、ノジマステラ神奈川相模原戦のホームゲーム。
試合前、メンバー外だった岡村は、浦和駒場スタジアムのバックスタンドコンコースにいた。
クラブが実施したハロウィンイベントのフォトスポットの担当として、ファン・サポーターのみなさんとの記念写真を撮影する役割を担っていた。
岡村らしくかわいらしいハロウィンにちなんだ魔女の格好で、フォトスポットの前に立つ。
「応援しています」
「頑張ってください」
「待っているよ」
温かい言葉を、予想以上に掛けていただく。
思えばこれまでもそうだった。
良いプレーができなかったとき、負傷して離脱しているとき。いつでも、どんなときでも、ファン・サポーターのみなさんは、目をキラキラ輝かせて自分のことを応援してくた。
だから、自分は頑張れている。
あらためて、支えてくださる方たちの存在の大きさに気づけた。
復帰した今も、嘘でも今季の怪我の期間が有意義なものだった、とは言えない自分がいる。
だが、それをどう活かすかは、今後の自分次第だろう。あの時間で強くなれたこと、あらためて気づかせてもらえたこともあったのだ。
◆「サッカー=人生」◆

なぜ、こんなにもサッカーに打ち込むのだろう。
自分でも不思議に思うことがある。
物事に真剣に打ち込めば打ち込むほど、つらいこと、乗り越えなければいけないことが出てくる。
だが、不思議と心の底からサッカーをやめたいと思ったことはない。
チームメイトや友人との軽口で、サッカーつらいね、とぽろっと言ってしまうことはある。
だが、そんなときも心の奥底では、結局プレーをしている自分を想像していた。
自分にとって、サッカーとは人生なんだと思う。
これまで生きてきた約20年の中で、大半の感情の浮き沈みは、サッカーに関わることだった。サッカーのない人生だったら、こんなに泣いたり、笑ったりできなかっただろう。
選手でいる期間は短い。
だからこそ、この時間を無駄にはしたくない。
◆忘れてはいけない悔しさ◆

10月半ばを過ぎたころ、岡村はようやくチームに復帰した。
10月25日のWEリーグクラシエカップのアルビレックス新潟レディース戦でリザーブメンバーに入り、終盤、ビハインドの状況で投入され、今季初出場を果たした。
その後も順調にメンバー入りが続いた。
そんな中、岡村にとって忘れてはいけない、いや忘れられないシーンがあった。
11月8日のINAC神戸レオネッサ戦だった。
天王山と言われた試合の終盤、1-1の状況で左サイドバックとして岡村はピッチに立つ。
その5分後だった。
中盤での攻防の後、I神戸にボールが渡り、自陣左サイドに位置した水野蕗奈選手にボールが渡る。
岡村自身、しっかりと水野選手を捉えていた。
水野選手がボールをスルーしながら、ターンし、岡村とのスプリント勝負になった。
相手の身体をとらえようとしたコース取りの妙もあっただろう。
一瞬前に出られ、そのまま深い位置まで進まれて、クロスを上げられてしまった。
ボールはファーサイドにいた選手にわずかに合わず、事なきを得た。だが、あわや失点していたかもしれない決定的なシーンだった。
悔しさで、その日の夜は眠れなかった。
最終的にチームが敗れたこともあったが、何度もあのシーンが頭をよぎり、悔しさのあまり、心に沸き起こる激しい感情をどう処理していいのかわからなかった。
重要な場面でのスプリント勝負。自身の強みが活かされる場面で、あんな負け方をしたのは過去に記憶になかった。
◆チームメイトの存在◆

さまざまな経験を得て、岡村は歩みを進めている。
ようやく先発フル出場ができた皇后杯のS世田谷戦でも前半、久しぶりのスタメンで、プレーの整理がしきれず、チームメイトに何度も助けてもらうことになったが、後半は、自身の長所であるボール奪取やパスカットを出せるようになっていた。
コーチングスタッフからも「後半に行くにつれてよくなっていたね」と言われた。
修正できたことはよかったと思う。
そして、試合後、チームメイトとも心の底から喜び合えたこともよかった。
先輩や後輩、チームメイトのために戦えることに心底の充実を感じている自分がいるからだ。
◆未来への期待◆
長い期間、チームから離脱していたとはいえ、今季、監督の堀が提示するサッカーに対して、岡村は少しずつ理解を深めてきた。
堀のサッカーには仕組みがある。複数の選択肢の中から選んで前に進んでいくサッカー。当初は頭がパンクしそうで難しかったが、理解が深まるとサッカーの新たな楽しさに気付けるようになった。
ボールの運び位置、ビルドアップの仕組み。
こんなに簡単に前に進めるのか。そんな驚きが待っていた。
だからこそ、ここから、どんな成長曲線を描けるのか、個人としてもわくわくしている。
◆彼女らしさ◆

チームは今、3つの国内タイトルを目指している。
最も近いタイトルは来年の元日に決勝が行われる皇后杯だ。
リーグも、リーグカップも、そして一発勝負である皇后杯も、負けは許されない。
勝ちきることにフォーカスし、そのとき、その場所で、やるべきことを整理し、全力を尽くす気持ちでいる。
個人的な目標はスタメンに定着し、試合に出続けること。
ストロングポイントを伸ばし、チームの勝利に貢献することだ。
これまで以上に自分の強みを積み上げていきたい。
そして、つらい時期を経験し、岡村は、大切なものに気づけた。
いつでも心から支えてくれるファン・サポーター、切磋琢磨し、共に成長を競いつつ、助け合うチームメイト。そして、さまざまな環境を整えてくれる家族や関係者の方たち。
その想いに応えるために、全力を尽くしたいと思う。
それが自分にとってのプレーする意味であり、原動力だからだ。
だから岡村來佳は、今日もピッチへと向かう。
彼女らしい覚悟と熱い気持ちを持って。
(文・写真/URL:OMA)

この原稿は、レッズレディースパートナーであるStoryHub社のプロダクトを活用し、人とAIが共創して作成させていただいております。
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