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榊原琴乃ーー「根本的に変える」悔しさを力に変えた躍動の裏側

2025-12-02

前半13分だった。

左サイドバックの長嶋玲奈にボールが届きそうな段階で、榊原琴乃は、猛然と左斜め前のスペースへと走り、パスラインを作った。

出遅れた相手DFが追いすがろうと反応したことを背中で感じた彼女は、長嶋からの鋭い縦パスを反転して方向転換しながら中に切り返す。

そしてそのまま、逆サイドのワイドポジションにいる丹野凜々香へと強いサイドチェンジのパスを送った。

その迷いない躍動感あるプレーに、彼女の、この試合への強い意気込みを感じることができた。

2025/26 WEリーグ クラシエカップ グループステージ 第2節 ノジマステラ神奈川相模原戦。

この試合は、皇后杯3回戦で敗退した後に迎える試合だった。

残す二つのタイトルへ、チームが力強くリスタートしたことを示さなければいけない試合だったと言える。

榊原は、そのことをよく理解し、そして表現していた。


 

 

「正直、古巣は考えていなかった――皇后杯の悔しさを力に」

 

 

試合後、榊原は、自身のプレーについて聞かれると、率直にこう答えた。

「正直、自分的に古巣というのはあまり考えていなくて、やっぱり皇后杯で悔しい思いをして、今回、(高橋)はなさんもいないし、見せる人は見せないといけない、という気持ちもありました」

“見せる人は見せないといけない”

それはプロ選手としての自覚と責任感から来る言葉だろう。

彼女の意識は、目の前の相手との関係ではなく、チームが置かれた状況、そして自分が果たすべき役割に向いていた。

「自分的には絶対にどの試合も勝たなきゃいけないというのはあるんですけど、やっぱり負けた次の試合は本当に大事なので、そこでいい波に乗れるかとは思っていました」

その結果、彼女は、先に挙げたプレーだけではなく、27分に魅せた迷いない仕掛けからの決定機の演出、終盤に魅せたタンチュリエ ローリーへのスルーパス、そして、何より2つのアシストという結果に結びつけている。

※最下部に動画あり

 

「根本的なところを変えていかなきゃいけない」

皇后杯の敗戦が、榊原に与えた影響は大きかったという。

「レッズに来てからあまり『負け』という感覚がなかったんです。以前は厳しい戦いが多くて、どの試合も勝つために頑張っているけど勝てないという状況を経験していました」

レッズレディースでは、もちろん勝利の経験が多くなる。

負けたとしても、上位チームなど拮抗する相手に勝ち点を落とす形だった。

そのたびに榊原は、「あと何かが足りないな」、「何かやらなきゃな」という思いがあった。

だが、前回の敗戦は違った。

「先週カテゴリーが違うチームに負けてしまって、やっぱり何か足りないというだけじゃなくて、根本的なところを自分自身変えていかなきゃいけないというくらい何かを感じていました」

勝ち点を落とした試合はもちろん、勝った試合であっても次につなげようとはしてきていた。

だが、そのくらいの取り組みでは、足りないことに気づかされたのだ。

榊原は言う。

「その中で、結果的にはやれることを突き詰めてやるしかないと思いました」

「それをしっかり1試合1試合、初心に戻って頑張ろうと考えていました。そういう意味ではすごくいい経験をさせてもらいましたし、ただ負けていい経験ができるチームにはなりたくないので、しっかり勝っていい経験ができるようにしたいという思いもあり、今日の試合には臨んでいました」

 

早い段階で2アシスト、課題に向き合った成果

この試合、榊原は2つのアシストを記録した。

いずれも、クロスから丹野凛々香と伊藤美紀のゴールを演出した形だった。

「それこそ皇后杯でも最後の質でクロスのところだったり、クロスを上げる前までだったり、そういうところで課題が出ていたので、いろんなことをチャレンジしようと思っていました。最近は見てから上げることが多かったんですけど、早いタイミングで上げてみるだったり、雰囲気というか、入ってくれているはず、というのを今日の試合はすごく意識してやっていました」

21分は相手DFとの1対1の形。またぎのフェイントと上体も連動させたフェイントを入れ、相手をゆさぶり、抜ききる前に上げている。

57分の3点目は、相手FKを奪った直後から、自陣エリア内から猛然とダッシュし、70m強を全速力で駆け抜け、クロスを上げた。


「そうしたものをどんどん続けていって、余裕が出てきたら(中を)見るとか、自分自身もっとレベルが上がっていったらいろんなことをやって、とちょっとずつ成長していけばいいなって思ってたんですけど、早い段階で2アシストできたので、それは良かったなと感じています」

皇后杯での悔しさを、しっかりと結果に結びつけた。

 

「一歩詰める」守備の進化

 

こうした榊原の進化は、攻撃面だけではない。

守備面でも、明確な成長を見せている。

相手との距離を詰め、寄せきる守備が9月以降に見られているのだ。

「元々自分は守備意識が高いとか、うまい選手ではないんです。でも、やっぱり今まで所属させてもらったチームで積み上げてきた守備に加えて、自分自身、さらにやらなければいけないことが守備だと思っていました」

その上で、伊藤美紀からのアドバイスでさらに改善できたことがあった。

「美紀さん(伊藤美紀)に練習から言ってもらったことがありました。ミニゲームのメニューだったんですが、コートが小さい分、選手間の距離も近めで、フルピッチよりもプレッシャーに行きやすかったんです。でも、最初の方は自分では行っているつもりでも全然行けてなかった。そしたら、美紀さんから、それじゃプレッシャーになっていないよ、うまい選手だと全然プレッシャーに感じないよ、と言ってもらえて。あ、これって相手にはプレッシャーになってなかったんだって」

レベルが高くなればなるほど、相手にはボールを持つ際に余裕があり、より一歩詰めることができるのかが、相手のプレーを制限する上では重要になってくる。

榊原は、すぐに意識して取り組み、その守備を徐々に表現できるようになってきていた。

 

初心に戻って、カップ戦もリーグ戦も

 

次戦は、SOMPO WEリーグ 第14節 アルビレックス新潟レディース戦。開催は12月20日(土)と少し時間が空くことになる。

榊原は言う。

「本当にカップ戦もリーグ戦も優勝を目指すのなら、どの試合も落とせないですし、その落とせない緊張感の中でやるのはすごくプレッシャーがあるかもしれません。でも、さっきも言ったんですけど、初心に戻って毎試合毎試合自分がやれることを全力でやるというのを意識していれば、おのずと全員が自分のマックスを出せると思います」

全員がそれぞれの最大値を出し、チームのために戦えば、よい結果が出せると榊原は信じている。

「試合だけじゃなくて練習からしっかり、カップ戦、リーグ戦関係なしに1週間過ごしてやっていきたいと思います」

皇后杯の敗退という痛みを経験し、そこから学び、成長しようとする姿勢。

初心に戻り、チームのために全力を尽くすという決意。

移籍1年目で早くも欠かせない存在になりつつある榊原が、あらたな悔しさと出会い、向き合っていく。

その結果、チームとともにどのように成長を見せ続けてくれるのか。期待したい。

(文/URL:OMA)



 

 

 

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榊原琴乃プロフィル

 

 

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